reservation.gif

風邪をひいたら抗生剤?

投稿者 j_sugimoto 日時 2016年1月17日

抗生剤(抗生物質)というのはどういうお薬か、ご存知でしょうか?

かぜを早く治す薬でしょうか? 
それとも、早く熱を下げてくれる薬でしょうか? 

答えは、抗生剤・抗生物質とは、細菌「だけ」をやっつける薬です。ウイルスには全く効果がありません。

かぜや発熱の原因はいろいろありますが、そのほとんどはウイルスによるものなので、抗生剤は全く効きません。 
みずぼうそう、おたふくかぜ、はしか、風疹、ヘルパンギーナ、アデノウィルス感染症、手足口病、ノロウイルス、ロタウィルス、突発性発疹、などなど・・・

小児科でよくみかけるこれらの病気は、みんなウィルスが原因なので、抗生剤は全く効きません。
抗生剤は、溶連菌感染症や、とびひなどの、細菌による病気にのみ効果があります。
実は、扁桃炎、気管支炎、中耳炎、副鼻腔炎などでも、ウイルスによるものも多く、その場合は抗生剤は効果がありません。もちろん、細菌によるものであれば、効果があります。

では、病気の原因がウィルスか細菌か分かるのか、ということですが、症状に特徴のある病気なら、比較的簡単です。
しかし、例えば、熱や咳や鼻水といった、いわゆる風邪症状だけ、というような場合は、その原因がウイルスか細菌かを見分けるのは、なかなか難しいです。
その為、例えば、熱や咳や鼻水が続いた場合に、経過をみながら検査 (採血やレントゲンなど)をして、細菌による感染症が強く疑われた場合などに抗生剤を使うことになります。
最初はウイルス性の風邪だったものが、長引くことで細菌が増えだして「こじれる」こともあります(2次感染といいます)。そうなれば抗生剤を使用します。

それなら初めから、「念の為に」抗生剤をのんでおけば良いんじゃない?と思われた方もおられるかもしれません。
ウイルスか細菌かはっきりしないなら、抗生剤をのんでおけば安心でしょ、というふうに思われたかもしれません。
しかし、それは、よくありません。

なぜかと言うと、

まず第一に、常在菌が減ってしまいます。
常在菌とは、体内にいつもいる細菌で、いわゆる善玉菌などのことです。
これらの細菌は、悪い病気の細菌から私達の体を守ってくれています。しかし、抗生剤を安易に使用してしまうと、この常在菌たちが死んでしまうので、かえって感染症にかかりやすかったり、治りにくい身体になってしまいます。抗生剤を飲んで下痢をした経験のある方も多いと思いますが、これも、腸内の善玉菌が減ってしまったからです。

第二に、耐性菌が増えてしまいます。 
耐性菌とは抗生剤の効かない細菌のことです。抗生剤を使えば使うほど増えていきます。
そして、いざ肺炎になってしまった時に、耐性菌なので抗生剤を使っても効かない、ということになり、大変なことになってしまいます。

昔は、おそらくウイルス性の風邪だと思っても、抗生剤を「念の為」とか「とりあえず」などと言いながら、処方する医師・医療機関が多かったようです。 
その為、薬をもらう患者さんの方も、抗生剤をのむことが当たり前になってしまい、「風邪は抗生剤のおかげで治っているのだ」という思い込みや、「抗生剤をもらっておけば安心」と感じる方が増えてしまったようです。

しかし、上に書きましたように、安易な抗生剤の使用にはデメリットもあります。
医師、特に私達小児科医は、患者さん一人一人に対して、抗生剤が必要かどうかをしっかり吟味しながら、丁寧にこまめに診療していくことが大切であると考えます。
また、病状に応じてこまめに再受診していただくことが、不必要な抗生剤の使用を減らすとともに、重い病気を見逃さないことにもつながります。

分からないことや疑問がございましたら、診察室でどうぞお気軽にご質問ください。